キシキシぷらむ視界

だらだらと長いだけの日記と、ちょこちょこと創作メモのような何かがあるブログ。

私を月まで連れてって


to the moon and back なる表現があるらしい。月につれていって、戻ってこれるぐらい。ということだそうだ。
I love you to the moon and back、つまり、「愛する君のためなら月まで行って帰ってきてみせよう」、こんな具合だろうか。半年ほど真面目に勉強しただけだから英語に自信はないが。

不可能なほど大げさな言葉が相手に強く深い印象を残す。気持ちを伝えることはもとより、思い出してもらうにはうってつけのやり方だろう。

しかし月という存在が身近になればなるほど、このイディオムもすたれていくのではないだろうか。
かつては絶対に手の届かなかった月。
cry for the moon、「月をほしがって泣く」、最大級のないものねだりも、確かに自分のものにすることは今もって、そして永遠に不可能だろうが、その地に降り立つことは完全にあり得ないことでもなくなった。
有名な「あなたといると、月が綺麗に見えますね」という甘いせりふで I love you を訳した漱石も、月の表面の写真を目にすればさぞ安堵することだろう。遠い月でよかった、と。

世のことわりがわからぬうちはどこかつかみどころのない印象があり、目に見えても触れることは決してできず、太陽ほど頼りにもならず確かでもなく、美しいのにどこか不安にさせもする。
そんな月を心情に取りこもうとする人は、これから減っていくのだろうか。
fly me to the moon なんて甘え方があるなら、まだまだ大丈夫だろうか。
現実に月まで旅行できる時代になることを、こうなったら私はもう望まない。

ところで冒頭の to the moon and back だが、私が最初に見た文章では I love you to back and the moon になっていた。
これは故意の誤記なのか?
それともこの間違いが面白いということなのか?
訳すとしたらどうなる?
「月から戻ってきて、月に連れていってしまいたいよ」
とか?たぶん。
せめて back of the moon なら。かなり強引になるものの、こうはならないだろうか。
「月に連れ戻すために僕は君を愛したんだ」
一体どういう会話なのだろう。ここから広がる妄想、妄想、妄想。