キシキシぷらむ視界

だらだらと長いだけの日記と、ちょこちょこと創作メモのような何かがあるブログ。

とある従者のはなし



これまで何人ものメイドにお世話になってきた。そこはかとなく感じる個性はあっても、やっぱりメイドにとってわたしの視界はしょせん職場。だいたい平均的。可もなく不可もなく。そうでなければいけないだろうし、いなくなってしまうし。だから一人ひとりのことを記憶してなんかいられない。
でも彼女だけは違ったなあ。
すごく印象に残っている。
何故って、彼女は全然メイドらしくなかったんだ。なんていうか、身近な存在感があって、それはそのまんま違和感につながってた。そうは言っても不快感はないよ。なかった。それだけでも不思議なのに、それ以上に彼女には巾着を作るっていう特技があってね。というか、それしか出来ないような人だったんだけど。できないというか、しないというか。どうだったのかな。
とにかく巾着、だと思うんだけど、それになりそうな道具や素材があると何でも巾着に仕立て上げてしまうんだよね。
正直なところ、見た目はあんまりよろしくない。彼女の容姿と同じ。ここだけの話。けど、その巾着が尋常じゃない。あつらえた服と同じで、目的にぴったりとはまる。職人魂すら感じる完成度。
改めて言うけど、一見アレなのに、シルクでもサテンでもなくてただの綿や麻の布でさっと縫っただけのものなのに、どこに出しても恥ずかしくない。しかも、何でも入ってしまうんだよね。もちろん、てのひらサイズのものに大鍋は入らない。
そういう意味じゃなくて、うーん……わたしが巾着に何を入れるか、入れたいか、入れるべきか、ちゃんと心得たうえで作ってある、と言えばいいかな。
その針仕事の場面を何度か見たんだけど、寸法とか全然はからないで糸を通して行くだけなの。目にも止まらぬスピードで。すごく大雑把。でも呼吸するみたいに自然。あれは無意識に近い。
彼女はわたしのことをちゃんと知ってたってことになるかな?それだったら、うさぎのワッペンだとかさ、飾りつけとかしてくれてもよさそうなんだけど。
そんなこと気にならないくらい完成されているから、そういえばそんなことも考えたことなかった。真似できないと思うなあ。あれは彼女にしか作れない。わたしがやってみようとしたら、まず絶対に綺麗にしようとしてしまうだろうし。
それが悪いということはない。
でも求めているものじゃない。
彼女にまた会いたいな。
今こそ作ってほしい。わたしのための巾着を。
どこに行ってしまったのかなあ。
何故、うちにいたのかな。
いつ、やめていったのかな。


こんな感じの夢を見た。
メイドさんにはそばかすがあった。髪の色は灰色になりかけの淡いブラウン。キャップの隙間から後れ毛が出ていた。
巾着のデザインは雑誌の付録の足元にも及ばない。なのに機能性は抜群。
目が覚めてから、これは何かのマンガの記憶かとしばらく考え込んだ。
私はどちらかというと詳細で筋の通った夢を見るほうだけれど、今回はやや度を越していた気がする。
しかしこのメイドさん、その役柄からしてどちらかと言えば針子さんではないかと思うのだが、夢の中では確かにメイドだった。何故かメイドだった。どうしてもメイドだった。

さて、この夢を分析してみるとしようではないか。
まず、似たような人が大勢いる中で特別な存在を求めている。本当に必要で、役立つものだけをもたらしてくれる、そんな人。ググったら巾着は選別のメタファー(?)らしい。真に大切なものを見極めたいという意識のあらわれ。
自分のことなのに、だからこそ分からなくなるもの。情けないことに他者の助力を望んでいる。しかし外見を取りつくろおうとする見栄がどうしようもなくつきまとっている。生活を脅かすほどに。
そのわりに開き直っている楽観的なありさまはいくら何でもそろそろ笑えない。
かつてそうでなかった時期の人間関係を思い出してみましょう。あのころ傍にいてくれて、今はいない、その人が実は私の大切な人なのだよなあ。

フロイトさんに任せたらすべては欲求不満の一言で片付けられるに違いない。おわり。